日本宝飾クラフト学院東京本校のB1ギャラリーで4月3日まで開かれている「2010年伝統装身具企画展 アジアのシルバージュエリー展」は、シルバージュエリーの奥深さとアジアの多様性を目の当たりにさせる刺激的な展覧会だ。
東アジア、東南アジア、南アジア、中央アジア、西アジア各地の代表的な伝統シルバージュエリー150点を地域ごとに紹介しているために、それぞれの地域の伝統的な装身具の特徴が理解しやすい展示方法。
キリスト教的な精神の文化圏としてひとつにくくることのできるヨーロッパと違って、一口にアジアといっても、それは大航海時代にヨーロッパ人によって便宜的に分けられた地理的な概念にすぎず、民族・文化・宗教的には全く異なっている。
「世界的に見ると、装身具文化が圧倒的に盛んなのはヨーロッパではなく、実はアジアなんです。4~5倍の規模があるんじゃないでしょうか。装身具はどこの民俗かを自己表記するシンボルなんです。だからある民族にとって、装身具は着けるものではなくて羽織るものだったりする。着けるなんてケチなことは言わない(笑)」(露木宏理事長)
それらの民族が頻繁に移動してお互いに影響しあって変質するかと思えば、中国のミャオ族とタイのメオ族のように、同じ民族としての伝統的な様式を維持していることもある。
この展示会では、地域や民族の典型的な装身具を通じて、共通点や違いを発見してアジア文化への理解を深めることもできる。
たとえば、東アジアの共通性は福を招く吉祥模様。葡萄やネズミは子孫繁栄のシンボルとして韓国・中国の装身具モチーフとして用いられてきた。韓国では蝙蝠(こうもり)が使われることが多いが、これは蝙蝠という音が偏福(幸せが片寄る)という言葉に字面も音も似ているせいだ。
タイでは装身具に招福や魔除けの意味よりも、もっと財産性を重視して換金性の高い装身具を好んでいる。牛のモチーフは現在の富の象徴としても、招福の意味合いをも兼ね備えている。
東南アジアには紀元前以前から青銅器文化があったが、遺物として伝わる装身具は少なく、現存するのは19世紀以降の装身具である。インドネシアでは、伝統的装身具にヨーロッパ文化が影響したモチーフが見られる。銀文化が主流のアジアにあって、金文化であることも特徴で、銀に金メッキを施したものが多い。これもヨーロッパの影響であろう。
あらゆる文化が混沌として存在し、西方から来たイスラム文化の影響も強く残っているインド。メノウの宝庫で赤い色が好きな国民性だが、伝統的な装身具にはあまり使われない。
厳しい歴史を持つ中央アジアでは、ロシア経由のヨーロッパの影響を受けながら、ティアラタイプの頭飾りなど西洋的装身具も見られる。背後の邪神から身を守るために背中に着ける装身具も発達した。
コーカサス地方の黒金象嵌は、インドネシアまでは伝わったものの日本人がまったく知らなかった技法だ。
イスラム系諸国には小さなコーランを入れることのできる装身具も多い。これは西アジアだけではなく幅広い範囲に存在している。
「ファッションによって変わらないのが伝統的な民族装身具。今でもお祭りの時はここに展示してある装身具を身に着けることもあります。彼らにとってジュエリーはファッションではなくて邪悪なものから身を守る生活必需品であり、財産として嫁入り道具として定着しています」(露木宏学院長)
「日本はファッションとしての装身具だけでいいのか。ファッションとしてだけなら日本のジュエラーは真似から抜け出せないですよね。このままでは他のファッション商品にジュエリーは埋もれてしまうことになります。特徴を出そうとしても、ここにあるような装身具を実際に見たことがないから、自分の感性でしか物作りができない。悩んでいる人ほど、これを実際に見るとものすごいショックを受けるはずです」
「明日売れる商品を一生懸命考えているだけでなく、ジュエリーって、装身具ってすごいんだなあと改めて感動して欲しいんです。いま自分が見ているものだけがジュエリーじゃない。ヨーロッパだけがジュエリーじゃない。もっと幅広いものだってわかってくると、自信が持てると思いますね」
アジアの装身具の収蔵品が充実しているのは、日本ではポーラ文化研究所と岡山県立美術館(いずれもトルクメンに特化)、文化服飾博物館など。そして装身具全般を網羅しているのが今回展示している宝飾クラフト学院のコレクションである。学生・プロだけでなく、装身具に興味のある人は必見の展示会だ。
会期:平成22年1月21日(木)~4月3日(土)
毎週 木曜・金曜・土曜日 木・金13時~19時 土13時~17時
会場:日本宝飾クラフト学院 東京本校B1ギャラリー(受付で確認の事)
入場無料
東京都台東区台東3-13-10
03-3835-3388
http://www.jj-craft.com/
イエメンのブライダルネックレス。3つのパイプ状飾りは、
コーランを入れるお守りケースを模している。20世紀後半。

ウズベキスタンのトゥーモルと呼ばれるお守りケース型
ネックレス。蓋の黒い部分はニエロと呼ばれる黒金象嵌技法。