オパールに似た7色の光彩を放つアンモライトは、1979年に発表された比較的新しい宝石である。約2億4000年前に出現して6500年前に恐竜とともに滅びたオウム貝のような形状の生物で、大きいものは直径1m以上にもなる。化石は世界各地で広い範囲で発見されていて、日本も有数の産地である。
アンモライトを自社で発掘して、ジュエリー業界に新しい素材を提供しようとしているグリフォンエンタープライズの鈴木崇文社長にこれからの抱負を尋ねた。
宝石用トップクオリティは2~3%
アンモナイトの化石のうち、特に貝が地中の鉱物と圧力に反応しアラゴナイトとして宝石化したものがある。真珠質層の輝きを持つこの化石はアンモライトと名づけられ、宝石品質とされるのはカナダとアメリカにまたがるロッキー山脈のカナダ側斜面でしか産出されない。
アンモライトは1981年にCIBJO(世界宝石連盟)で公式に宝石として認定されたが、生産はほぼ大手2社に独占されてきた。最大の市場は日本だが、歴史が浅いせいか日本の業者はもっぱら輸入販売をメインにして、採掘にタッチする会社はなかったようだ。
グリフォンエンタープライズは、もともとは化石の輸出入を扱うと同時に、魚類や恐竜など博物館向けの復元模型を作っていた会社だ。ところが複製造形のための原型部門で、折からのアニメブームの流れでフィギュア(人形)を製作したところヒットしてしまい、化石関係のビジネスは主に国内外での卸売りにとどまってきた。
フィギュア事業が落ち着いた6年前に、化石ビジネスの活動を本格化して、アンモナイトや恐竜化石の発掘にも積極的に関わるようになった。交通機関の発達で未知の鉱区にも足を伸ばせるようになったため、同社の化石発掘専門スタッフは、世界中を飛び回っている。
MASTER FOSSIL(マスターフォッシル)は、恐竜・古生物の立体モデルから本物の化石や鉱物標本を扱う同社の専門店ブランド。中でもカナダ・アルバータ州の7200万年前のアンモライトは、ワールドクラス・博物館クラスの逸品が採掘されることで有名だ。
「カナダのアンモライト発掘場所はインディアン居留地になっていて、採掘に許可が必要ですし、掘った後は埋め戻して木を植え直したりと、厳しい保護規制があります。現在他社に出資した鉱区が1箇所ですが、来年は同じカナダのアルバータ州に新たな別の採掘場を100%自社出資で予定しています。
アンモライトが採れる量は少ないんです。ユンボを使った2チームが1日頑張って、石が採れるのはコンビニ袋の半分ぐらい。品質評価は4~5段階になっていて、磨いてジュエリーに使えるトップクオリティのものはその2、3%です。ほとんどがバラバラの状態で小さなルースかブロック状で、貝の形をした完全体は1週間に1つ見つかるかどうか」(鈴木社長)
IJTでは博物館クラスも展示
モース硬度は4。青系やピンク系の色彩が珍重され、ジュエリーの素材とする際は、クオーツやスピネルのキャップを貼り付けて硬度を増すことが多い。ナチュラルで使う場合は、真珠同様の扱いをする必要があるが、研磨された表面が綺麗な輝きを放つ。
歩留まりが悪いために、これまで市場に出回るとどうしても価格が高めになっていた。しかしアンモライトは完全体からルースまで多様な魅力がある。グリフォンエンタープライズでは、現地直送の強みを生かして、様々なグレードと形状のアンモライトを提供して、宝石素材としてのアンモライトの普及をめざしている。
また90年代に入ってパワーストーン、風水の世界でも注目されて需要が広がっている。そこでは色の違いによってそのパワーに想いを託し、ジュエリーよりも原石を楽しむ傾向があるそうだ。
「アンモライトの魅力は、一個一個違う雰囲気があって、輝きとか微妙なひび割れがそれぞれの美しさになっていることで、私もそこに惹かれます。宝石店のジュエリーを見ていると、この部分の色の表現は、本当は違う宝石を使いたかったんだろうなというのが私でもわかるものがあるんです。
現状ではアンモライトはすごい高級品の部類に入っていますが、私からするとちょっと高すぎる。ハイ・ジュエリー向けから低価格帯、シルバーアクセサリーやストラップ用など用途別に分けて提案するアンモライトを、ぜひ選択肢のひとつとして使っていただきたいと思います」(同)
これまでは従来の卸ルート中心だったが、これからは小売も視野に入れて2011年12月の東京・池袋のミネラルフェアへの初出展に続き、12年1月はIJTに初出展(IJTブース:B1-32)する。最終的にはアンモライトのジュエリーブランドとして確立させていく方針だ。
IJTには他ではめったに見られない百~千万円クラスの完全体アンモライト化石や、アクセサリー品質からジュエリー品質までのルース数百個を展示する。またブースの隅には同社が採掘した貴重な恐竜や三葉虫の化石も陳列する予定だ。ジュエリー業界にも潜んでいる石オタクや三葉虫マニアだけでなく、新しい素材を探している業界人必見のブースになることは間違いない。
「産出量が少なくて若い市場なので、グレードに関してはいろいろなものが混じって売られていることもあります。マスターフォッシルでは、産地直送という特徴を背景に、アンモライトの供給面と品質面で、信頼できる安定した提供ができるブランド作りをしていきます」(同)
問 ㈱グリフォンエンタープライズ/マスターフォッシル
IJTブース:B1-32 TEL045-479-2751.
http://www.master-fossil.jp/
*2012年1月11日~14日まで東京ビッグサイトで行われる「国際宝飾展IJT2012」は業者のみのトレードフェア。一般の入場は不可。
*「IJT2012ガイドブック」掲載の同社広告に記載されたブースナンバーはB1-32に変更された。
宝石用アンモライトルース
ブロックを削って好きな形に加工するデザイナーもいる
宝飾業界にもファンが多い三葉虫の高品位な化石
化石が出現するとユンボを止めて手作業で掘り出す
堀り出されたばかりのアンモナイトは冷たい
同社が所有するアンモナイトと同時代の白亜紀トリケラトプスの化石
同社の化石ハンター松隈フレディー海外事業部長(右)とスコットが恐竜化石を発見。