日本を代表する彫金家・飯野一朗氏が指導、受講生の力作が完成
山梨県は、地場産業である宝飾分野の収益力向上と「匠の技」の継承を目的に、令和7年度から展開している主要施策「ジュエリー産地やまなし高度人材養成事業」の一環として、『一流ジュエラーによるプロフェッショナル向け実習講座~線象嵌と日本独自の銅合金の着色方法~』を開催した。世界的な彫金家である飯野一朗氏(山梨県立宝石美術専門学校校長、東京藝術大学名誉教授)を講師に迎え、全4回の集中実習を経て9月17日に最終日を迎えた。

スライドを用いて煮色着色のメカニズムや大根おろしの役割、色金の歴史的背景を解説する飯野一朗氏
県内の宝飾産業は、芸術性の高い一点物に挑むことで高度な技術・技能が代々継承されてきた。しかし近年は経済情勢の影響もあり、市場のボリュームゾーン向け量産品の製造が主流となったことで、若手・中堅の社会人職人が就職後に高度な専門スキルを磨く機会が減少していることが産地共通の課題となっていた。こうした背景から、学生ではなく現場の第一線で活躍する「社会人職人」を対象に、名人の技を直接伝える本講座が開講された。産地活性化への期待も高く、山梨県ジュエリー協会が所属組合員の受講料を50%助成するなど、官民一体となった手厚いバックアップ体制のもとで実施された。

受講生にタガネの角度や力の入れ方を直接手本を示して指導する飯野氏
実習では、現代ジュエリーにおいて施工例が極めて少ない彫金の伝統技法「象嵌(ぞうがん)」、中でも難易度が高い極細線をはめ込む「線象嵌」をテーマに据えた。受講した8名(うち山梨県内の職人5名)は、デザインや線の角度、力の入れ方、押す・引くの力加減に合わせて膨大な種類の中からタガネを選定。自ら研ぎ・手入れ(再研磨)を重ねたタガネを用いて、幅わずか0.7mmの溝を彫り込んだ。金属線が後からしっかりと噛み合って抜けないよう、溝の断面形状を計算しながら彫り進める高度な手技が求められる中、職人たちは0.7mmの純銀線や純銅線を寸分の狂いもなく打ち込んでいった。

銀線が嵌め込まれた直後のプレート(着色前)
仕上げの着色工程では、銅板および金3%を添加した赤銅(しゃくどう)板を「大根おろし」に漬け込んだ後、硫酸銅と緑青などを調合した液で煮沸する日本固有の「煮色着色(にしょくちゃくしょく)」を実施。大根に含まれる成分が金属表面を清浄・活性化させ、煮沸によって赤銅特有の深みのある烏羽色(黒紫色)の発色が引き出され、嵌め込まれた純銀・純銅の繊細なラインが鮮やかに浮かび上がる力作群が完成した。

受講生たちが一堂に会し作業に没頭する教室風景
山梨県産業振興課では、本講座(一流ジュエラー実習講座)に加え、彫留・リカットを学ぶ「匠の技継承講座」、技能五輪や技能検定対策を支援する「社会人向け輝きの伝承講座」の3本柱を今後も継続展開し、伝統の技と現代のデザインを融合させた高付加価値ジュエリーの創出を力強く牽引していく方針だ。

伝統の「煮色着色」。大根おろしに漬け込んだ金属板を硫酸銅の液で煮沸し、赤銅特有の深い黒紫色を引き出す
【受講者と制作作品(一部抜粋)】
■山田 明 氏(株式会社ピアリング/ジュエリー経験年数3年)
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作品モチーフ:魚のヤマメの体表模様(パーマーク)
特徴:清流に生きるヤマメの楕円模様を、0.7mmの純銀線と点象嵌の巧みな組み合わせで表現。
■N.I 氏(株式会社ピアリング/ジュエリー経験年数5年)
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作品モチーフ:2匹の魚・骨の透かし
特徴:魚の骨部分に穴を開けた透かし加工と線象嵌を融合させ、立体的な陰影を創出。
■遠藤 拓斗 氏(合同会社R&K/ジュエリー経験年数12年)

作品モチーフ:花
特徴:花弁や雄しべの有機的で滑らかな曲線を、正確なタガネさばきによる線象嵌で描写。
■岸本 直樹 氏(株式会社桑山/ジュエリー経験年数28年)

作品モチーフ:松
特徴:長年の経験を活かし、松の細い葉先まで緻密に表現した高い完成度の作品。
【開催概要】
事業名:ジュエリー産地やまなし高度人材養成事業「一流ジュエラーによるプロフェッショナル向け実習講座」
講座名:一流ジュエラーによるプロフェッショナル向け実習講座~線象嵌と日本独自の銅合金の着色方法~
主催:山梨県産業振興課
協力:山梨県立宝石美術専門学校(設備提供・サポート講師)
助成協力:山梨県ジュエリー協会(組合員受講料50%助成)
日程:令和8年9月8日(火)、9日(水)、15日(火)、16日(水)[※9月17日最終日・講評]
会場:山梨県立宝石美術専門学校(山梨県甲府市丸の内1丁目16-20 ココリ7・8階)
講師:飯野 一朗 氏(山梨県立宝石美術専門学校校長、東京藝術大学名誉教授、彫金家)
受講者:8名(山梨県内の社会人職人5名ほか)