世界各地から革新を担う専門家を表彰
インフォーマ・マーケッツはこのほど、カラーストーン業界においてイノベーションと前向きな変革を推進する45歳以下の専門家を対象とした「NextGen Coloured Gem Excellence Awards by JWA(Jewellery World Awards)」の受賞者18人を発表した。
今回選出された受賞者は、世界各地から集まった多彩な顔ぶれとなった。ベルワラ、イーダル=オーバーシュタイン、ミナス・ジェライス、ニューヨークで活躍する宝石スペシャリストをはじめ、ジャイプールやホーチミンを拠点とするジュエリーデザイナー、バンコク、台北、新疆で活動する教育者、さらにモントリオールや香港で市場の革新に取り組む人材などである。
受賞者たちは、それぞれが築いてきた業界の基盤や伝統を尊重しながら、変化する市場環境への適応を進めている。特に、サプライチェーンにおける透明性やトレーサビリティーの向上、次世代人材の育成に向けた教育への投資、デジタル技術を活用した新たなビジネスモデルの構築などが共通した取り組みとして挙げられる。
こうした活動の根底にあるのは、「消費者と、それぞれの宝石が持つ物語をつなぐ」という理念である。カラーストーンが古くから備えてきたロマンや神秘性を守りながら、鉱山から市場に至るまでのサプライチェーンそのものにも価値を与え、宝石が持つ物語をより明確に消費者へ伝えていくことを目指している。
インフォーマ・マーケッツのジュエリーフェア担当ディレクター、セリーヌ・ラウ氏は、「カラーストーン業界は現在、ヘリテージ、信頼、誠実さを礎とする未来へと歩みを進めている」と指摘。「新たなリーダーたちは、こうした価値観を尊重することこそが時代とともに進化することだと理解している。イノベーションと伝統は共存することができ、また共存しなければならない」と述べた。
同アワードには、次世代を担う人材の功績を称えるだけでなく、業界が新しい発想、多様な視点、起業家精神を重視していることを若い世代に示すという、二つの目的がある。
ラウ氏は「今回の18人の受賞者は、より大きなムーブメントの一翼を担っている」とし、「彼らの活動に光を当てることで、その功績を称えるだけでなく、変革を推進するリーダーたちのネットワークを可視化することができる。このネットワークが、今後のコラボレーションや知識の共有を促進し、カラーストーン業界の未来をともに強化する力になる」と強調した。
JGW9月展で表彰式
受賞者への表彰は、9月16日に開催される「JGW(ジュエリー&ジェム・ワールド)9月展」のレセプションで行われる予定である。
また、世界各地からカラーストーンに関わる幅広い専門家が集結する同展では、受賞者の一部が翌17日に開催される「GEM+カンファレンス」のパネルディスカッションにも登壇する。同カンファレンスは、カラーストーン業界の主要ステークホルダーが一堂に会し、業界の最新動向や今後の方向性について議論する場となる。
今回の「NextGen Coloured Gem Excellence Awards」は、カラーストーン市場が従来の伝統や価値を守りながら、トレーサビリティー、教育、デジタル化など新たな潮流を取り込み、次世代型の産業へと進化していることを象徴する取り組みともいえる。
伝統を受け継ぎながら、新たな市場を開拓
ドイツ・イーダル=オーバーシュタインを拠点とするAlexander F. Arnoldi氏は、1919年から続く4代目の宝石商・カッターである。ドイツの宝飾企業Wempeでキャリアをスタートさせた後、イーダル=オーバーシュタインでカッティング技術を習得。ドイツ国内で最優秀の見習い職人に選ばれ、さらにバンコクのGIAでカラーストーンを専門的に学んだ。現在は伝統的なドイツのラピダリー技術と、国際的かつ未来志向のビジネスを融合している。
同じくドイツのCarl-Philip Arnoldi氏も4代目の宝石業界人である。10年以上にわたり業界で経験を積み、家業の伝統を受け継ぐ一方、カラーストーンのオンラインプラットフォーム「Gemhype」を共同創業。デジタル技術と現代的なストーリーテリングを活用し、宝石を若い世代に分かりやすく伝える取り組みを進めている。
カナダ・モントリオールのBénédicte Lavoie氏は、家族経営の宝石会社を率いる一方、業界教育にも積極的に取り組む。カナダ各地の学生に定期的に講演し、次世代の宝石専門家の育成にも力を注いでいる。
タイを中心に広がる国際的な宝石ネットワーク
タイからは複数の専門家が選ばれている。
Amira Hatta氏は、カラーストーンの鑑別、原産地判定、研究を専門とするICA GemLabのマネージングディレクターを務める。2023年に現職に就き、バンコクを拠点に国際的な取引・研究プロジェクトを推進している。また、タイ宝石・宝飾品業者協会(TGJTA)の副会長など、複数の国際業界団体でも活動している。
Anurak Sinchawla氏は5代目の宝石業界人で、バンコクのSant Enterprisesで高品質な天然ルビー、サファイアを扱う。欧州、アジア、中東、北米のラグジュアリーブランド、宝飾企業、デザイナー、コレクターなどと取引し、責任ある調達とタイのカラーストーン産業の国際的地位向上を目指している。
また、Chomphol Phornchindarak氏は、宝石・宝飾品鑑定を専門とするジェモロジストであり、タイ宝石・宝飾品業者協会会長を務める。中国のGACやNGTCと連携し、「Gemports-Colored Gemstone Report」プロジェクトを主導するなど、国際的な取引基準の向上にも取り組んでいる。
ルビー、サファイア研究で知られるE. Billie Hughes氏は、Lotus Gemologyの共同創業者兼マネージングディレクター。低温加熱処理を含むルビー・サファイア研究を進め、専門誌への論文執筆や教育活動にも積極的である。L’ÉCOLE School of Jewelry Artsとの教育プログラムにも協力している。
米国では「高品質」と「教育」「デジタル」がキーワード
米国からは、カラーストーンの調達・流通を担う若手が名を連ねた。
Dave Bindra氏はB & B Fine Gemsのバイスプレジデント兼調達責任者で、19年以上にわたって希少石の調達、カッティング、リカットに携わる。高級宝飾ブランドやハイジュエリーメゾンへの供給に加え、GIA理事会でも教育分野を担当するなど、業界の人材育成にも関わっている。
ニューヨークのCedrik Wild氏は、家族経営のWild Gems LLCを率い、世界各地から80種類以上の宝石を取り扱う。家業の伝統を継承しながら北米市場での事業を拡大している。
Jaimeen Shah氏は、ニューヨーク、バンコク、タンザニア、ジャイプール、コロンボ、ラトナプラを結ぶ垂直統合型ビジネスを展開。270人以上を雇用し、世界の主要ラグジュアリーブランドに宝石を供給している。AGTAでも理事・副会長として業界の制度整備や会員支援、人材育成に取り組んでいる。
コロンビア産エメラルドを専門とするNaftali Gad氏は、3代目のエメラルド専門家である。2024年に家業へ加わり、国際調達や顧客開拓、展示会、マーケティングを担当。特にエメラルドのカッティング分析を得意とし、色や個性、重量を維持しながら石の美しさを最大限に引き出すことに注力している。
「責任ある調達」とサステナビリティーを重視
ブラジルのManuela Soares氏は、1986年創業のArtOuro & Gemasを率いる2代目。国際的な事業拡大とともに、ブラジルの宝石産業や地域社会とのつながりを維持し、より責任ある透明性の高いサプライチェーンの構築を目指している。ICAのコンプライアンス&サステナビリティー委員会を率いるほか、零細・小規模採掘業者との連携、フォーマル化、トレーサビリティー、市場アクセスの改善にも取り組む。
ベトナムのLe Yen氏も、透明性と倫理性を重視する次世代リーダーの一人である。GIAおよびAIGSのGraduate Gemologist資格を持ち、採掘・調達まで幅広い経験を持つ。自ら設立したLEYEN Coに加え、ベトナム宝石・宝飾・美術工芸協会やASEAN Gems and Jewellery Trade Associationなどでも要職を務め、国際的な宝石産業ネットワークの構築を進めている。
デジタル化が新たな顧客層を開拓
インドのMahima Bardiya氏は、宝石業界の専門知識とデジタル技術を融合するデザイナーである。Procreateを使ったジュエリーデザインを専門とし、オンライン市場への事業展開を進めている。天然カラーストーン、責任ある調達、専門知識をデジタルプラットフォームや現代的なブランド表現で発信し、新たな消費者層との接点を広げている。
香港のWilliam Wong氏もデジタル戦略を積極的に活用する。家業の製造基盤を背景にWills Jewelleryを創業し、スピネルやガーネットなど、従来は一般消費者にあまり知られていなかった宝石を日常使いのファインジュエリーへ取り入れている。
さらに、オンライン上に宝石データベースを構築し、AIを活用したマーケティングやSEOによって宝石に関心を持つ若い層への情報発信を強化。オンラインから実店舗へ顧客を誘導するO2O型のビジネスモデルを構築している。
中国、スリランカなどでも新世代が台頭
中国のWang Fei氏は、新疆・和田地域を拠点に、家業である和田玉ビジネスを継承する2代目。GIA Graduate Gemologistおよび国家上級和田玉鑑定士の資格を持ち、現代的なデザインと伝統的な中国玉文化を融合したアートジュエリーを展開している。
スリランカのMushir Munas氏は、2013年にSri Gemsを設立。わずかな自己資金から事業をスタートし、現在では30カ国以上に取引先を持つ国際的なカラーストーン供給企業へと成長させた。香港からツーソンまで世界各地の展示会に参加し、スリランカの主要宝石市場であるベラワラを拠点に国際展開を進めている。
台湾からは、プレシャスコーラルの老舗企業Chii Lih Coralを率いる3代目のGeorge Lu氏が選ばれた。50年以上にわたる職人技術と文化的遺産を守りながら、国際展示会、博物館との連携、業界標準化、教育、デジタル化などを推進。CIBJOのCoral Blue Bookや、中国の宝石品質プレシャスコーラル産業標準の策定にも関与している。
次世代が示すカラーストーン産業の方向性
今回の顔ぶれから浮かび上がるのは、カラーストーン業界が「希少な石を仕入れて販売する」という従来型のビジネスから、産地・品質・倫理性・ストーリー・教育・デジタル技術を総合的に価値化する産業へ変化していることである。
家業を受け継ぐ若手の多くは、伝統を守るだけではなく、AIやSNS、オンライン販売、データベースなどの新しい技術を積極的に取り入れている。また、サステナビリティーや責任ある調達、トレーサビリティーを重視する動きも共通している。
カラーストーン市場では、天然石の希少性だけでなく、「どこから来た石なのか」「誰がどのように加工したのか」「どのような物語を持っているのか」を消費者に伝えることが、今後さらに重要になるとみられる。
今回選ばれた専門家たちは、それぞれ異なる産地、企業、専門分野を持ちながら、伝統と革新を融合し、国際的で透明性の高い次世代型カラーストーン産業を形成する役割を担っている。