インド・ベルギーのダイヤモンド産業協力に新たな章
ベルギー王国のバルト・デウェーフェル首相は9月4日、政府代表団を率いてムンバイのBKC(バンドラ・クルラ・コンプレックス)にあるバラット・ダイヤモンド・ボース(BDB)を訪問した。ベルギー政府の首相が世界最大級の稼働中のダイヤモンド取引所を訪れるのは今回が初めてであり、100年以上にわたるインドとベルギーのダイヤモンド産業の関係における歴史的な節目となった。
今回の訪問は、インドとEUの自由貿易協定(FTA)締結直後というタイミングでもあり、両国、とりわけダイヤモンド・宝飾品分野における貿易・協力関係を一段と深める機会となった。
BDB関係者は、ムンバイとアントワープという世界有数のダイヤモンド拠点がそれぞれバリューチェーン上で重要な役割を担っていることを強調。両国の業界は今後、協力と責任を共有しながら、ダイヤモンド取引の健全性を高め、市場への信頼を強化するとともに、次世代に向けた持続可能な産業発展を目指す考えを示した。
BDBのアヌープ・メータ会長は、インドとベルギーの関係は単なる貿易関係にとどまらないと指摘。特にグジャラート州出身者を中心とする多くのインド人ダイヤモンド業者がアントワープに拠点を構えていることを挙げ、人的なつながりの深さを強調した。
また、BDB設立の構想段階では、関係者がアントワープを訪問し、同地の取引所から多くの知見とインスピレーションを得たことを明らかにした。これらを参考に、ムンバイに国際的なダイヤモンド取引センターを構築したという。
さらに、BDBのメフル・シャー副会長は、1947年創設の世界ダイヤモンド取引所連盟(WFDB)の会長を務めている。同連盟の本部もアントワープに置かれており、両都市の業界団体レベルでの結びつきも強い。
メータ会長は「世界は急速に変化しており、われわれの業界もパートナーシップを通じて適応していかなければならない。繁栄するだけでなく、公正で透明性があり、持続可能なダイヤモンド取引を構築することが共通の目標である」と述べた。
一方、インド宝石・宝飾品輸出促進協議会(GJEPC)のキリット・バンサリ会長は、国際貿易の舞台でインドの存在感が高まる中、ベルギー首相を迎えられたことは業界にとって大きな意義があると強調した。
バンサリ会長によると、2025~26年度のインドとベルギー間の宝石・宝飾品貿易額は約35億ドルに達する。また、インドで研磨される数百万個のダイヤモンドの多くが、アントワープを経由して世界市場へ流通している。
同会長は、こうした数字について「単なる統計ではない」とし、インド国内の事業者や雇用、さらに家族の生活を支える500万人超の直接・間接雇用が、両国を結ぶグローバルなダイヤモンド・バリューチェーンの中に組み込まれていると説明した。
今回の首相訪問については「共有する経済的な歩みにおける、より強固な新章の始まり」と位置付け、両国がダイヤモンド分野での関係をさらに強化し、貿易、信頼、相互の機会を基盤に新たな協力分野を開拓する好機になるとの期待を示した。
「インドはダイヤモンド産業発祥の地」
満場となったBDBの会場で演説したデウェーフェル首相は、今回の訪問は「長らく実現していなかった」と述べた。その理由として「インドは数世紀前にダイヤモンド産業が始まった揺籃の地であり、アントワープも15世紀以来、ダイヤモンド取引の重要拠点であり続けてきた」と説明した。
首相はさらに、ムンバイとアントワープが、それぞれインドとベルギーの金融・ビジネスの中心都市として重要な役割を果たしていることにも言及。「資金が生み出される場所」として両都市の存在感を評価した。
また、ベルギー政府は最近締結されたインド・EU FTAを歓迎していると表明。関税・コストの引き下げに加え、通関手続きのデジタル化・簡素化などを通じて、両地域間の貿易やビジネス交流が拡大するとの見方を示した。
デウェーフェル首相は、インドとベルギーの協力関係の基盤としてダイヤモンド産業は極めてふさわしいと指摘。「ダイヤモンドを意味する古代ギリシャ語“adamas”には『壊れないもの』という意味がある。両国の貿易は双方向であり、双方に利益をもたらしている。今後さらに100年以上にわたり発展していくだろう」と述べ、両国の長期的な関係強化に期待を示した。
GJEPC、ムンバイ・ダイヤモンド業者協会も訪問
首相と代表団はBDB施設内も視察し、インドの宝石・宝飾品輸出業界を代表するGJEPCの事務所を訪問した。
GJEPCにはインド全土で1万1,000社を超える輸出企業が加盟しており、政府との政策対話に加え、既存市場の拡大や新たな輸出市場の開拓を推進している。
また、ムンバイ・ダイヤモンド・マーチャンツ協会(Mumbai Diamond Merchants Association)も訪問。同協会はムンバイで最も歴史のあるダイヤモンド業界団体であり、BDB内に設置された約2万平方フィートのダイヤモンド取引ホールを運営している。加盟者は約1万4,500人に上り、中小事業者や個人トレーダーが中心となっている。
訪問の最後には、GJEPCおよびBDBの委員会メンバーに加え、インドを代表する輸出企業やベルギーで大きな事業基盤を持つ主要ダイヤモンド企業の経営者らを交えた意見交換会が行われた。
今回の訪問は、100年以上にわたり築かれてきたインドとベルギーのダイヤモンド産業の関係を再確認するとともに、インド・EU FTAを追い風として、両国が貿易の拡大だけでなく、透明性、信頼性、持続可能性を備えた次世代のダイヤモンド流通体制を構築していく契機となりそうである。