貴金属価格高騰やダイヤモンド流通に波及 軽量化など商品対応も
地政学的な混乱と不確実性が世界の宝飾品市場に及ぼす影響が一段と強まっている。9月5日にイタリア・ヴィチェンツァで開催された「2026 CIBJOセンテナリー・コングレス」では、地政学情勢が宝飾・貴金属市場に与える影響をテーマとしたパネル討論が行われ、ロシアによるウクライナ侵攻、米国の関税政策、イラン・米国間の戦争などが市場の変動要因となっていることが指摘された。
討論は「Jewellery Outlook」編集者のデビッド・ブラフ氏が司会を務め、貴金属、ダイヤモンド、カラーストーンの各分野から専門家が参加した。
貴金属市場では、地政学的リスクの高まりを背景に、投資家が「安全資産」として金や銀を買う動きが価格を押し上げている。金価格は2022年以降、140%を超えて上昇し、銀価格も180%以上の上昇となった。こうした急激な価格上昇は宝飾品の製造・販売にも影響を与えている。
ドイツ宝飾協会(Bundesverband Schmuck, Uhren, Silberwaren und Verwandte Industrien)のグイド・グローマン専務理事は、貴金属価格の上昇を受け、メーカーが商品の軽量化を進めているほか、新たな合金の開発や、ダイヤモンド・カラーストーンと貴金属を組み合わせた新しい商品提案に取り組んでいると説明した。
また、Metals Focusのゴールド・シルバー部門ディレクター、マシュー・ピゴット氏は、金・銀価格が上昇している背景を解説するとともに、特に銀市場で見られる異例の価格変動について報告した。
ダイヤモンド流通への影響も大きい。アントワープ・ワールド・ダイヤモンド・センター(AWDC)のカレン・レントメーステルズCEOは、ロシアのウクライナ侵攻を受け、G7およびEUが制裁を導入したことで、ロシア産ダイヤモンドのアントワープへの流入が停止し、同地の原石取引が大きな影響を受けたと説明した。その後、ロシア産ダイヤモンドはインドやドバイへ流れるようになっているという。
天然ダイヤモンドのマーケティングについても議論され、ワールド・ダイヤモンド・カウンシル(WDC)名誉会長のフェリエル・ゼルーキ氏と、ナチュラル・ダイヤモンド・カウンシル(NDC)外務責任者のラルカ・アンゲル氏が、地政学的環境の変化に対応した天然ダイヤモンドの市場ポジショニングについて説明した。
一方、カラーストーン市場では、米国の関税政策が主要な課題となっている。米国宝石取引協会(AGTA)のジョン・フォード氏とブルース・ブリッジズ氏は、タイ、インド、ブラジルなどで製造されたカラーストーン製品に対する米国の関税について、適用除外を求めて米議会への働きかけを行っていることを報告した。
関税を巡る不透明感が続く一方、2026年のツーソン・ショーではビジネスが堅調に推移したという。地政学リスクや関税政策が宝飾品の国際取引を複雑化させる中でも、需要そのものは底堅く、業界各社は商品構成や調達先の見直しなどを通じて環境変化への対応を進めている。
今回のCIBJOコングレスでは、地政学問題が単なる国際政治上のリスクにとどまらず、貴金属価格、原石の国際物流、関税、さらには宝飾品の商品開発やマーケティングにまで直接影響を及ぼしている実態が浮き彫りとなった。今後も各国の政策や紛争の動向が、世界の宝飾市場を左右する重要な要因となりそうである。